大学を卒業したとき、正直、自分が何をしたいのか分からなかった。
歴史を学びに大学に行ったものの、「歴史を仕事にする」とは一体何なのか、そんなことも分からずにいた。好きなことと、それを仕事にすることの違いすら理解できていなかった。歴史を学ぶことは楽しかった。でも、学んだところで、社会にどう生かすのかまでは考えていなかった。
それでも、卒業すれば社会に出なくてはいけない。
就職活動をするつもりもなく、誰かに相談することもなく、なんとなく流れるままに働き始めたのが、亀有にある接骨院だった。なんとなく、体を扱う仕事には興味があった。昔から運動は好きだったし、身体の仕組みにも関心はあった。
でも、現実はそんなに甘くない。
接骨院の仕事は、想像とはまるで違っていた。そこは「東洋医学を極める場」ではなく、「患者をいかに効率よくさばくか」が求められる場所だった。流れ作業のように次々と患者が運ばれ、決められた施術を淡々とこなす。確かに、患者さんは多かったし、繁盛していた。でも、どこか違う。自分がやりたいのは、これなのか?
このまま、この仕事を続けていて、満足できるのだろうか。
そんな疑問が膨らんでいく中で、ひとりの鍼灸師の先生と出会った。接骨院に勤めていたその先生は、見た目は少し怖かったけれど、知識が深く、患者の体のことを本当に考えて施術しているのが伝わってきた。
「お前、鍼灸師になったらどうだ?」
何気なく言われたその一言が、なぜか心に刺さった。
このままではいけない。もっと深く学びたい。
そう思ったときには、もう鍼灸の道に進むことを決めていた。