【浮脉と上咽頭炎の関係──葛根湯と椎骨脳底動脈循環不全の考察から】

【浮脉と上咽頭炎の関係──葛根湯と椎骨脳底動脈循環不全の考察】

(今回の話は少し専門用語も出てきますが、さらっと読み飛ばしてください)

風邪の初期でのど痛の症状がある方には、葛根湯を勧めると、よく効く。
しかし、治っても頻繁に風邪をひく人がいる。葛根湯を飲むと改善するが
しばらくするとまた風邪をひく。そんな患者さんがいたのだが面白いことに気づいた。
ちょっとその話をしてみよう。

頻繁に風邪をひき、そのたびに葛根湯を服用すると軽快するが、根本的には改善しない。
ところが、長野式治療にある椎骨脳底動脈の循環を促進する治療を施してから、
風邪をひく頻度が確実に減ったし、ぶり返すことが減った。これはどういうことなのか。

この患者さんの特徴として、「浮脉」があった。東洋医学では、浮脉は表証、つまり風邪の初期に現れる脉状とされている。また、浮脉は肺の病証とも関係が深い。肺は「皮毛を主る」とされ、外界との境界を守る働きを持つ。風邪をひくと真っ先に影響を受けるのもここ。東洋医学では、肺といっても肺の臓器だけの話ではなくて、のども呼吸器の一部なので、東洋医学的に考えれば「肺」に含む場合もあるし、やはりのどが痛いときにも「浮脉」はよく診る。

人は空気を吸う生きものなので、鼻や口やのどは、常に外の空気に触れることになる。そしてその空気には細菌やウイルスも漂っているため、つまり呼吸をするたびに、鼻や口やのどはウイルスたちと触れ合い、そして侵入経路ということになる。

その中でものどの上部にある、[上咽頭]という部位が近年とても注目されている部位なのだ。場所はのどの上の方であり、鼻の穴の奥にある。ここは口をアーーーーンと開けても見えない。耳鼻科の先生が口の中を見ただけでは、ここは見えない。実はここが慢性的に強い炎症が続くことで、非常にやっかいなことが起こる。ごく簡単にいうと自律神経のバランスを崩す。交感神経が優位になり、筋緊張が増し、血流が滞る。

(専門的な説明はここでは割愛するが、詳しく知りたい方は【病巣疾患研究会】という耳鼻咽喉科のドクターを中心とした学会があるので、そのHPを見てください)

上咽頭の強い炎症による、最も分かりやすい症状は、首や肩の強い緊張です。反射を引き起こして筋肉が強く緊張する。つまり肩こりの出現です。風邪ひくと肩こりが強くなる方いませんか?それは実は自律神経の反射なんですよ。

その結果、椎骨脳底動脈の循環が悪くなります。これは首の骨の中を通っている血管です。悪循環ですが、首の緊張が強くなると、自律神経の状態はさらに酷くなるので、免疫機能も低下し、風邪をひきやすくなる。

そんな時に、「天柱」という経穴(ツボ)のあたりを探ると、凝りっ凝りだったり、少しむくんでたりします。

首の後ろにある「天柱」というツボ

ここで、長野式の「椎骨脳底動脈循環促進処置」をすると、この天柱の凝りが緩む。鍼を行なう際には、ここの凝りが緩むのを目安に行なうとイイ。カラダの全体の緊張なども緩んだりするので、交感神経の緊張が和らぎ、副交感神経が働きやすくなっているのだと考えている。もちろん、自律神経の調整が出来ているのなら、免疫機能も整い、風邪をひきにくくなるというのも道理だろう。

葛根湯が、風邪の初期症状や肩こりに効く、と謳っているのは、上咽頭部の炎症への作用だと考えると、納得がいく。しかし、それだけでは根本的な改善にはならない。なぜなら、風邪をひきやすい人は、単に風邪のウイルスに対して弱いのではなく、上咽頭炎による慢性的な免疫低下が根底にあるからだ。したがって、治療の視点を「風邪の治療」から「上咽頭炎の改善」へとシフトする必要がある。

簡単に言うと、
 のどが元々弱い
  ⇒ 上咽頭の炎症が強くなりやすいタイプの人 
   ⇒ 自律神経の反射が起こりやすい 
     ⇒ 免疫機能も働きも弱い
      ⇒ 風邪を繰り返しやすい 

 だから、風邪の治療だけでなく、上咽頭の部分の改善を狙わないと、というお話です。

浮脉を呈する患者に対し、単に葛根湯を勧めるのではなく、肺の機能を高め、上咽頭の炎症を鎮める治療を組み合わせることが重要で、たとえば、先ほどから言っている椎骨脳底動脈循環促進処置である、委中、飛揚、崑崙、その他に天突、列缺、尺沢などの肺経のツボを使いながら、頚部の天柱、風池、完骨などに鍼を施す。また、上咽頭炎を改善するために、うがいや鼻洗浄、さらにはEAT(上咽頭擦過治療)を併用するのも有効かもしれない。

「風邪をひきやすいから葛根湯を飲む」という考え方から、「なぜ風邪をひきやすいのか?」に目を向けること。その背景に上咽頭の慢性炎症が隠れている可能性を考え、治療方針を立てる。そうすることで、風邪をひきにくい身体を作ることができるのではないか。

風邪を繰り返す人こそ、自分の「肺」の状態、そして「上咽頭」の健康に目を向けてみてほしい。

タイトルとURLをコピーしました