「本当にこの道でいいのか?」
鍼灸師になってから、何度もこの問いが頭をよぎった。
技術を磨くほどに、自分の未熟さが浮き彫りになる。患者さんに鍼を打ち、マッサージを施し、それなりに「良くなりました」と言ってもらえることも増えた。でも、それが本当に自分の力なのか、自信を持てない時期があった。
ある日、こんな患者さんがいた。
「先生、前回の治療のあと、すごく楽になったんです。でも、次の日にはまた元に戻ってしまいました。」
この言葉が突き刺さった。
治療の直後は良くなっても、時間が経てば元通り。それは本当に治ったとは言えないのではないか。
「じゃあ、鍼って何のためにあるんだ?」
焦りが募った。
技術を学び、知識を増やしても、患者さんの痛みが根本的に解決しないのでは意味がない。
「もっと効果を持続させる方法はないか?」
そう考えて、治療の仕方を見直した。ツボの選び方、鍼の深さ、患者さんの体質に合わせたアプローチ。今まで「効く」とされていたやり方をそのままやるのではなく、「この人にはどういう刺激が必要か」を考えるようになった。
そして、もうひとつ大事なことに気づいた。
「治療は、患者さんと一緒に作るものだ。」

こちらがいくら施術をしても、患者さん自身の生活や習慣が変わらなければ、改善は一時的なものに過ぎない。だからこそ、治療のあとは「なぜ痛みが起きたのか」「どうすればそれを防げるのか」を一緒に考えるようにした。
すると、次第に患者さんの反応が変わってきた。
「先生の言った通り、普段の姿勢を気をつけたら、前より楽になりました。」
「前はすぐ元に戻っていたのに、今回は調子がいいままなんです。」
そう言われることが増えてきた。
単に痛みを取るのではなく、その人がより良い生活を送れるようにサポートすること。
それが、自分が目指すべき鍼灸師の在り方だと気づいた。
失敗は、痛い。でも、それがあるからこそ、気づくことがある。
「完璧な治療なんてない。だからこそ、試行錯誤し続ける。」
この気持ちを忘れずに、これからも治療に向き合っていきたい。