スポーツの世界で「世界を相手に戦う」ことは、単なる技術や体力だけでは成し遂げられません。選手の背後には、彼らを支えるプロフェッショナルの存在があります。その中には、鍼灸師という影の立役者がいることを、皆さんはご存じでしょうか。
私自身、過去にジャイアンツの某投手から専任トレーナーの話をいただいたことがあります。また、オリンピック前の合宿でシンクロナイズドスイミング(現・アーティスティックスイミング)の選手たちのケアをお手伝いした経験もあります。これらの経験は、鍼灸師という職業が、単なるマッサージや慰安的ケアの提供者ではないことを改めて実感させてくれました。
【なぜ鍼灸師がスポーツ現場にいるのか】
日本では1990年代以降、日本オリンピック委員会(JOC)の医・科学サポート体制に鍼灸師が正式に組み込まれています。プロ野球、Jリーグ、Bリーグなどのトップチームでも、専属の鍼灸師が日常ケアや遠征帯同に関わっています。個人契約でトップアスリートを支える鍼灸師も珍しくありません。
しかし、なぜ鍼灸師がここまで信頼され、必要とされているのでしょうか。
【理由①:高度な専門知識と国家資格】
鍼灸師は、3年間専門学校に通い、医療に関わる基礎知識(解剖学・生理学・病理学など)を学び、国家試験に合格して初めて名乗れる国家資格です。
身体を生業とする選手たちに触れることは、単なる技術の問題ではなく、責任を伴います。
知識も技術もないまま、「なんとなく良さそうだから」と手を出してよい領域ではありません。選手の命を預かる仕事――それが、トップアスリートを支える鍼灸師の立場なのです。
【理由②:即効性と深層アプローチ】
鍼灸は筋膜、トリガーポイント、神経、経絡など、表層だけではなく深層の調整が可能です。トレーニングで生じる微細な筋疲労や硬結は、放置すればパフォーマンス低下や故障の原因になります。鍼はそれらを解きほぐす強力なツールです。
また、捻挫や筋損傷など急性症状に対しても、鍼灸は即効性を発揮します。しかも薬を使わないため、ドーピング規定のある世界で重宝されるのです。

【理由③:心身を一体でとらえる東洋医学】
トップアスリートは、肉体だけでなくメンタルのコンディションも極めて重要です。鍼灸は東洋医学の観点から、自律神経や内臓機能、心理状態を整える手法としても用いられます。
心と体の一体性を理解し、全体を調和させる技術。それが、鍼灸師が選手から信頼されるもう一つの理由です。
【未来への視点:職人技と科学の融合】
これから先、AIやセンシング技術がどれほど発展しても、人の身体に直接触れ、微細な変化を感じ取れるのは、人間の手に他なりません。鍼灸師は、この「職人技」と「科学的根拠」を両立させる立場として、さらにスポーツ界での価値を高めていくと私は考えています。
スポーツトレーナーを志す人たちに伝えたいのは、「責任を背負う覚悟」と「確かな土台」が必要だということです。それなしに、トップアスリートを支える現場に立つことは許されないし、あってはならない。
まとめ
鍼灸師は、日本代表クラスの選手たちの影にいて、確かな技術と知識、責任感で支える存在です。私自身、現場での経験を通じて、国家資格を持つ者だからこそ背負える使命感と責任の重さを知りました。これからも、鍼灸という技術が、選手たちの未来を支える力であり続けるよう、日々研鑽を続けていきたいと考えています。